《ブログ小説》愛と絆のfive star story 38(美咲の想い)
美咲と水菜の座る背後の方でカップルらしき相手の女性がとうとう痺れを切らして、怒りをぶちまけたようだ。水菜が恐る恐る姿勢をずらして、様子を伺ってる。確かに彼の行動は褒められる態度では無い、相手女性の気分を不快にさせてしまうのも簡単に推測出来る。
(咲ちゃん・・どうしよう・・なんでこうなっちゃうの?)
水菜は美咲に視線を向けた。彼女は悲しげな表情に俯き加減で視線を更に落とし込んでる。水菜は胸の辺りに痛みを感じる。でも、やはり言葉に詰まる。
「なんか、例の相手の方・・騒がしくなってるよな。美咲・・大丈夫か?」
「そう言えば、お前って今は恋人って居るの?」
「・・・」
美咲は黙ったまま、首を横に振った。
「そうか・・」
「・・彼と別れてからは、ずうっと1人だった・・」
「なんとなく色々疲れちゃってて・・」
「へー、色々気持ちの上で大変だった訳だ。」
「うん、どうなんだろうね?自分でも、いまいちよく分からなくて・・」
「咲ちゃん・・」
美咲にとって、あの時は悠史が気持ち的にもケアしてくれては居たのだが、美咲も女の子なのだ。姉さん気質の分だけ彼女も背伸びしてた部分があったのだろう。そんな心境の中で再び元彼の再開、しかもお粗末な彼への変貌ぶり。かと言って幸せそうな彼だったとしても今の美咲の状態から言うと、どんな心境になっていただろう。
「・・・今日は本当に、何なの?」
「二度と私に連絡して来ないで!!」
カップルらしき女性が、とうとう爆発してしまったようだ。彼女は自分の財布から2枚の千円札をテーブル越しに叩きつけた。そして席を立ち此方側に向かって力強い足取りで歩いて来る。彼女にとっては出口へ向かう予定だったのだろう。ただ、どうしてもイラッと感を収められずにいたのか、拓也達の座るテーブルのまえで立ち止まり美咲の方へ振り返って一瞬だけ美咲に視線を投げてきた。
「・・・・・」
「・・・」
美咲にとっては気配を感じ取れていたのだが、視線を上げる事が出来る心境では無かった。美咲は彼女の痛みが薄っすらとでも理解出来たからなのだ。そして美咲の胸の中にも痛みが走る。美咲にとっては意外と長く感じた一瞬だつた。そして彼女はスタスタとテーブルを離れ帰って行った。
「なんか、凄い光景を垣間見た感じだね。」
「うん、確かに。・・彼どうするのかな?」
「美咲、あんま気にすんなよ。あっちは、あっちの都合な訳でお前の問題じゃないから。」
「ありがと。でもね、少しだけ彼女の気持ちも分かるんだ。」
「逆に・・どうして、あの人はあんな態度になっちゃうのか・・」
「少しだけ疑問なんだけど・・本当に咲ちゃんの元彼?」
「うん・・でも、あの人と良くしてた時って、あんな感じじゃ無かったの・・」
3人の会話を遮る様に店員さんが食事を届けに来たのである。3人は言葉を止めて配られるパスタを各々受け取った。仕事を完了させた店員は軽く頭を下げて引き返して行く。テーブルに並ぶ彩り豊かで美味しそうなパスタを前にしているのにトーンがいまいち上がり難い。
「せっかくだし、早く食べようよ!」
「恋のトラブルよりダンゴ!!」
「咲ちゃん・・(大丈夫?って聞きたいし、平気って言って欲しい)」
「どちらにせよ、食べようか。」
「咲ちゃんも食べようね。」
「もちろん、食べるよ。」
「いっただきまーす!」
「いただきます。」
「おっ、うめーじゃん!」
美咲の背伸びしたノリで3人はパスタを食べ始めた。少しの間だけはご馳走気分を味わいながら過ごせそうである。微妙な展開から始まった今日の昼食は、やっと本題を迎えられ、お互いの胸の中にはまだ、わだかまりが残っているのも事実であるが、せっかくの時間を大切にしてもらいたいと美咲は思うのである。
「うん、確かに美味しい。拓、今度はどうする?」
「!?」
「今度って、どう言う意味だよ!!」
「えっ、本当?」
「また来れるの!?」
「拓君と同伴で?凄く楽しみなんですけど」
「ちょ、ちょっと、まち!」
3人は、それなりに満喫し始めたが案外簡単に食べ終えてしまった。楽しい時間って本当に一瞬で終わるもんだなと再認識してしまうほどである。
(食べ終わっちゃった・・)
(このまま・・店出ちゃう?)
美咲は自問自答してる。確かに終わらせた恋である。もう、割り切っていたはずの存在に思っていた。今日の再会が生まれるまでは、変わり果てた彼の行動に動揺する自分が居た。美咲にとって何故か消化不良を感じる心境なのである。
(・・あの時は確かに幸せだった自分もいた。悲しみも苦しみも味わった・・)
(・・・どうして?・・ねぇ、壊れちゃったの?)
「・・咲、おーい美咲。」
「・・えっ?」
「あっ、ごめん。」
「ぼちぼち、引き上げるか。」
「あっ、そうだよね。うん、行こうか!」
「咲ちゃん・・大丈夫?」
3人は席を立ちレジの方へ向かうその瞬間、美咲は気になるテーブルに視線を向けた。
(・・・・帰ってたんだ。)
彼女は、気持ちの中に空洞化された世界を感じた。その空洞が圧迫される様な、冷たい風が通り抜ける様な不思議な心苦しさが喉の間際まで登り詰めてくる様だった。
(ご愛読有難うございます。こちらのリンクはこの物語の目次みたいなものだと理解して頂けると有り難く思います。こちら気になる部分をチェック願います。)