ブラックで踊る今日とfive star story 15(狂気に走り出す恋心2)
どれくらい時間が過ぎたのか・・
ようやく平常心を取り戻しつつある水菜はゆっくりと歩き出す、心臓は未だに脈打ってる。
ガチガチに強張った全身がギクシャクしている。
高仲は感情の高まりを持て余していた、握るハンドルに力が入る。
車を走らせる運転が荒々しくなる、アクセルは急発進、ブレーキも無理矢理止める始末。
切られるハンドルでタイヤが悲鳴を上げる。
(一体どこで歯車がズレたんだ!あの時の笑顔も会話も俺を見つめる眼差しも・・全て嘘だったと言うのか!?)
苦しさが、腕に力が入る
絶望が景色を暗くする
行き場を無くした感情だけが積もり出す、より深くより重く。
(・・・・)
不思議な事に、あれだけ押さえ切れなかった苛立つエネルギーが積もり出す感情のお陰で静まり始めた。
そして新たに塗り変わる感情。
癒し
安堵と胸元の締まる感覚
あの時、高仲が握りしめた水菜の腕
細くて柔らかい人肌の温もり
自分の手の中に感覚が蘇る。
(幸せだ・・)
(あいつ・・水菜が欲しい・・)
そんな瞬間、つい先ほどの怯えた水菜が頭の中に鮮明に映し出される。
目一杯に振り払う俺の手
目は恐怖に見開き口元は微かに震えていた。
そして今度は
痛み
刹那
引き裂かれる感覚
(胸が締め付けられるように苦しい・・)
(そんなに、怯えないで欲しい俺は、お前の存在が欲しいだけなんだ!)
高仲は、スマートフォンに収めてあるコンビニから出て来た水菜の姿を眺めていく。
(なんて素晴らしいんだ!俺を満たせるのは、やっぱりお前なんだ。)
(水菜・・お前が欲しい・・)
水菜の写し出された画像が高仲の心に平和をもたらす。
彼は重くのし掛かる水菜への想いを満たすための歩き方を知らない。
想いが積もるほどに水菜の存在が遠くへ感じる
(行かないでくれ・・どうしてそっちに行くんだ!)
高仲は自分の中で生まれてくる感情に振り回されては、ただただ行ったり来たりするだけた。
今日の出来事を振り返る。
事務所で作業する水菜の姿
細く透き通る指先
首元に漂う色気
そして運命を感じた水菜との遭遇
コンビニのガラス越しに歩く水菜
水菜の姿を手に入れた画像
2人きりの空間を共有した胸の張り裂けそうな瞬間
じかに触れ合った水菜の温もり
(もうだめだ、止められない・・)
好きが、どんどんと増幅されるだけだ。
きっと忘れられない、水菜の温もり
(・・欲しい・・好きなんだ・・欲しい・・)
(水菜・・)
(水菜、水菜・・水菜・・)