ブラックで踊る今日とfive star story 12 (忍び寄る見えない恋心4)
ちょうど、15時を過ぎた頃に水菜が席を立って悠史の側まで来た。
「窪さん、ちょっと気晴らしに飲み物買ってこようと思うんだけど、いいかな?」
外の空気に触れる、ちょうど気分転換には都合が良いだろうと悠史も感じた。
壁際に社用車の鍵が横並びに3台分並んでぶら下がっている。その鍵には、車のナンバープレートの数字が書き込まれたキーホルダーも付いている。
悠史は、その鍵がぶら下がっている所に視線を向けた。
「いいよ。どれでも好きなの乗ってけ」
水菜は、振り向き鍵がぶら下がってる所に歩いてった。
「ありがとう、使わせてもらうね」
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今日は、仕事を午前中におわらせてある。
今は車の中で暫しのくつろぎタイム
車のアクセサリー電源が入ってる状態だ。
彼は、助手席のシートに置いてあるタバコとライターを手に取り火を着けた。
「ふーーー」
彼の口元から白い煙が吐き出される、運転席側の窓は全開にしてある。
彼は、軽く目を閉じて頭の中に彼女を想い起こし始めた。
愛嬌のある顔である。
自分を見つめる彼女は少し微笑んで声をかけてくる。
時折揺れる身体に髪の毛がなびく、そして彼女の愛用品に思われるシャンプーの香り。彼女の指先が自分の頬に触れて来た
胸が高まり心臓がドキドキと走り出す。
「あ〜、水菜・・」
「お前は何故、気が付かない・・」
胸が締まるような苦しさだ!
その苦しさを紛らわすように、唇を噛み締める。
「運命の相手にが、ここに居るのに鈍感な、困ったちゃんだ!」
彼は短くなったタバコの先端を灰皿に擦りつけて火を消した。先程、悠史が確認した銘柄のタバコである。
そうなのだ、彼は高仲である。
彼は水菜の居る事務所の辺りを行き来していたのだが、悠史たちが事務所に戻って来た事に身動きが取りづらくなったのと、水菜の側に居たいと願う心境が、窓際に滞在する理由となったのである。
そして、偶然か否か悠史に気配を悟られ、その場を離れるしかなくなったのが、現在である。
彼はそれを機に帰ろうと、言う気にはなれなかった。行動も想いも引き返せない位の物に、成長していたのだ。
彼が瞑想から醒めたとき見慣れた建屋の出入り口から、1人の女性が出て来たのである。
高仲の目は釘付けになった!
彼にとって絶対に見間違えない女性
水菜である。
まさか、こんなタイミングで出てくるとは思ってもいなかった。
彼にとって、運命が自分を応援してる。
そんな風に捉えてしまったのだ。
彼女は、乗用車の方へ向かってる。
よく見ると手には鍵が握られていた。
彼は車のエンジンをかけて、シフトノブをドライブに切り替えて
「これは、お前が俺に惚れる運命の時になる」
彼は彼女の出発を待ち、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。