ブラックで踊る今日とfive star story 14(狂気に走り出す恋心1)
水菜はいつもの定位置に車を止めて、後続車に注意をむける。
(えっ!?)
(・・・・・)
(どうしよう・・動けない。)
彼だったのだ、つい先ほどまで話題になっていた高仲だったのだ。水菜はタイミングの悪さに自分の運のなさを痛感させられた。
全身に緊張が走る。
(普通に・・自然に・・)
水菜は、動揺を押し殺す様に勇気を振り絞って車のドアを開けて車を降りた。
なるべく自然に高仲の居る車へ視線を向けた。
水菜より若干遅れて高仲も車を降りて来た。
水菜は高仲と視線が合わさるのを確認して、声を掛けた。
「こんにちは。」
頑張って自然な笑顔を意識して見せた、頑張った分だけぎこちなさが生じる。
それに乗っかって来るように高仲が反応した。
「・・こんちは」
彼もまた溢れんばかりの緊張である。
彼にとっても重大な決断だった、水菜の車が駐車場に入る時に、ためらう心境を根性でねじ伏せた。
(先程の失態はもうゆるされんぞ!)
自分に言い聞かせる。
(これ以上待たせていいのか!!)
高仲は水菜と同じ様にハンドルを切った。
「今日は如何されました?」
(貴女の事を気に掛けてる人)
(N社の高仲さん)
(貴女に熱い視線を送る)
(あのてのタイプは注意が必要)
(愛情表現が変な方向に進んじゃう)
あの時の美咲の言葉が次から次へと頭の中で響いて来る。心臓が不快な音を立てる。
(どうしよう・・怖い・・)
全速力で走り去りたい気分だ。
だが、自分の身体が自分のものでは無い様だ。鉛のように、重く硬い、そもそも逃げる事なんて出来ない。
この瞬間がもの凄く長いものに感じられる。
高仲が俯き加減に応答した。
「・・いや、今日はカタログ調整の確認と打ち合わせがしたくて・・」
ゆっくり水菜の元へ歩み寄る。心臓が高鳴る脈打つ血流が喉から噴き出しそうだ。
(近い・・俺を待ってたんだね!)
(今、俺たちは2人きりだ!これは運命だ!このチャンスは物にしないと神が笑う。)
段々と近づくにつれて水菜が振り向き身体を建物の入り口の方に向き始めた。
顔だけは、こちらを向いてる。
更に歩み寄り水菜の隣に並び掛けた時、少しだけ先行して水菜は歩き始めた。
水菜は精一杯の自然体を意識して行動していた。
(早く事務所に戻りたい・・)
(皆んなのいる安心する場所へ・・)
「じゃあ早速、事務所で打ち合わせましょうね。」
無意識に足早になっていく。
(ここで・・ここで、アクションしないと2人きりの空間が失われる。)
高仲は、焦っている。
(ここで・・ここしか無い!)
思わず、高仲は水菜の右手首を握っていた。
水菜の前身に電撃が襲う。
握る彼のもの凄い力が、水菜の恐怖心を更に増幅させる。
声も出ない、水菜は精一杯の力で勢いよく振り払っていた。
「・・・・・」
(怖い・・・)
水菜は恐怖に怯える目をしている。
とても身動きできる心境では無い。
(拒絶された!)
(何故・・何故だ・・!)
絶望感、ショックが高仲を包む
(裏切られた・・)
高仲の目が、みるみる見開かれる・・段々と怒りが込み上げ始めた。が、水菜の恐怖に、こわばった表情が彼に冷静さを取り戻させた。
「ごめん・・帰る」
彼は車に乗り込みエンジンを掛け早々と駐車場を出口へ走らせた。
抑えられない感情と絶望、再び込み上げる怒りを胸に・・。